睡眠と生活習慣病とは密接な関係がある
質の悪い睡眠は生活習慣病の罹患リスクを高め、かつその症状を悪化させることがわかっています。
睡眠の問題については、「睡眠習慣」と「睡眠障害」の問題に分けられますが、この記事では、睡眠習慣について睡眠不足やその蓄積によって生じる「睡眠負債」について解説していきます。
慢性的な睡眠不足と生活習慣病
慢性的な睡眠不足は日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。
一例を挙げれば、健康な人でも一日10時間たっぷりと眠った日に比較して、寝不足(4時間睡眠)をたった二日間続けただけで食欲を抑えるホルモンであるレプチン分泌は減少し、逆に食欲を高めるホルモンであるグレリン分泌が亢進するため、食欲が増大することが分かっています。
ごくわずかの寝不足によって私たちの食行動までも影響を受けるのです。実際に慢性的な寝不足状態にある人は糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっています。
「睡眠負債」とは?
「睡眠負債」とは、慢性的な睡眠不足の状態が続き、その負債が蓄積され、心身への支障をきたしている状態のことをいいます。適切な睡眠時間には個人差がありますが、一般的には7時間程度が適切とされています。
例えば、適切な睡眠時間が7時間の人が毎日5時間しか眠れていない場合、10日間で20時間、30日間では60時間の「睡眠負債」を抱えてしまうことになります。
「睡眠負債」を抱えている人のほとんどが症状を自覚していないといわれています。
先ほども述べたように、「睡眠負債」は、生活習慣病を誘引し死亡リスクを高める非常に怖い症状です。
ここで、あなたがこの恐ろしい「睡眠負債」を抱えているかどうかチェックしてみましょう。
『睡眠負債』を抱えている人の症状
チェックリスト
✓ 目覚めが悪い
✓ 日中でも眠気がある
✓ 体がだるい
✓ やる気が出ない、鬱々とする
✓ 体調を崩しやすい
✓ イライラしやすい
✓ 太りやすい
これらの項目に心当たりのある人は、もしかすると『睡眠負債』を抱えているかもしれません。このような日中の不具合が起こる原因が睡眠の場合は、睡眠の改善が有効です。この記事で『睡眠負債』への理解を深め、対策をはじめましょう。
「睡眠負債」がもたらす不調

「睡眠負債」はあらゆる病気と関連していると言われていますが、具体的にどのような不調を招くのでしょうか?
「睡眠負債」が原因で引き起こされる身体の不調には、肉体的な不調と精神的な不調があります。
具体的には次のような症状が出る場合があります。
【肉体的な不調】
疲労感や倦怠感
免疫力の低下
肥満
糖尿病や脳卒中、高血圧などの生活習慣病の悪化など
【精神的な不調】
- 明生力や判断力の低下
- 不安定な感情
- 抑うつ状態など
精神的な不調は、認知力の低下や感情面に影響を及ぼします。
睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があり、ストーリー性のある夢はレム睡眠中に見ます。
そして現実に見聞きした要素が夢に現れることで記憶の整理や定着、感情の適正化がなされて、怒りや悲しみなどの感情を鎮静させる効果があります。
しかし、睡眠が不足してしまうとレム睡眠も短縮されてしまいます。
その結果、本来なされるはずの記憶や感情の調整ができず、認知力や判断力などの認知機能の低下やネガティブな負の情動が残るというわけです。
「睡眠負債」が肥満や糖尿病などの生活習慣病を悪化させる原因にもなる
「睡眠負債」は、身体の疲れを残りやすくなるだけでなく血行や代謝の悪化によって肥満の原因となります。
また、甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンの分泌が見られ、血糖値や血圧にも悪影響を及ぼし、高血圧や糖尿病、脳梗塞などの生活習慣病の発症リスクを高める可能性があります。
日本人は他国に比べて子供の頃から睡眠時間が短い傾向にあり、将来の成長への風の影響が危惧されています。
また、大規模で長期間にわたる研究において、生存率に関わる大きな病気の影響や年齢を統制した時、睡眠時間が7時間の人が最も命が長いことがわかっています。
日本人が「睡眠負債」を抱えやすい原因は

OECD(経済協力開発機構)」がまとめたデータによると、日本人の睡眠時間は加盟国の中で最も短く、平均を大きく下回っています。
また、厚生労働省の調査によると、40から50代の半数程度は6時間未満の睡眠時間となっています(厚生労働省 平成30年「国民健康・栄養調査」より)
日本人が「睡眠負債」を抱えやすいのは何故なのでしょうか?
日本人の中でも、40代女性の睡眠時間が世界1短いという結果が出ています。
原因として考えられるのは、現代社会ではやるべきことが多く、仕事以外にも家事や育児などが山積されていて、睡眠時間を犠牲にせずにはいられないということが挙げられます。
また、通勤時間が長いということ、スマホやPCなどの普及による夜型の生活、仕事のストレスからくる不眠も関係してきます。
「睡眠負債」を解消するための4つのポイント

自分にとって適切な睡眠時間を知る
まず、自分にとって適切な睡眠時間を把握する必要があります。
適切な睡眠時間とは、「日中に眠気がなく、活動に支障が出ない睡眠時間」ということで、個人差がありますが、7時間を基準に考えてみると良いでしょう。
自分の適切な睡眠時間を計測するときのポイント
体内リズムを作るとされるホルモン「セロトニン」は、朝日を浴びるタイミングで多く分泌されます。
なので、起きる時間を基準に就寝時間を矯正するのがお勧めです。
例えば、7時が起床時間なら、逆算して0時に布団に入ります。
それで日中の活動に支障が出るようであれば、寝る時間を30分伸ばして、11時半に布団に入るというように段階的に調整していけば良いでしょう。
しかし、寝ようと思った時間にうまく入眠できない人もいます。そういった人は、睡眠効率を確認してください。
睡眠効率とは、「睡眠時間/布団に横になっていた時間× 100」で導き出される数値で、この睡眠効率が85%以上であれば大丈夫です。
さらに、睡眠時間を計算するときは、昼寝やうとうとした時間も加算しましょう。
ここで気をつけたいのは、昼寝は20分以上は取らないようにすることです。
睡眠効率が85%を下回っても入眠できない場合は、どうすれば良いのでしょうか?
「認知行動療法の観点からいうと、「条件付け」が有効です。
これは、「寝室や布団は寝るための場所」だと認識させる方法です。
スマホや本など余計なものは持ち込まず、眠くなってから布団に入るようにしましょう。
もし眠れない時間が30分を起したら、一旦布団から出ます。
そして眠気が現れるのを待って、もう一度布団に入ってください。これが定着してくると、布団に入ると眠くなるように体が認識してくるようになってきます。
質の良い睡眠を取る
「睡眠負債」を解消するためには、質の良い睡眠をとることも大切です。
快適な睡眠が得られる環境を整えましょう。
快眠を得る法としては、以下のようなものがあります。
【環境】
- 照明は優しい暖色を選び、できるだけ暗くする
- 寝返りを打てる大きさの寝具を選ぶ(寝返りはレム睡眠とノンレム睡眠のスイッチになります)
- 室温ではなく、布団の中の温度を快適に保つ(約33℃位が適温)
- 好きな香りの柔軟剤やアロマを使う(ラベンダーや運動系がおすすめ)
- 掛け布団を軽いものにする(重く感じたら「睡眠の老化が始まっている合図)
【行動】
- 就寝前の大食いや大量の飲酒を控える(アルコール摂取は眠くなりますが、途中で目が覚めたり起きるのが早くなったりします)
- 就寝前のテレビ鑑賞やスマホの使用を避ける
- 運動不足の人は、心地よい疲労感が得られる程度の軽いストレッチを行う
- 入浴してから布団に入る(体温が下がることで眠気がます)
- カフェインレスのホットドリンクを取る
- アイマスクをつける
- 明日のことをくよくよ考えない
- 頻繁に時計を見ない
とくに光は睡眠と密接に関係しているので、照明をやさしい暖色のものに変えるだけでもとても効果的です。
また、不眠症の人に多いのが明日のことを考えて眠れなくなってしまったり、「早く寝なくちゃ」と時計を見て自分にプレッシャーを与えてしまっているケースがあります。
これらは、いずれも眠れない原因となってしまう可能性があるので、眠る前はできるだけ頭の中をオフにして布団に入るように心がけてください。
光と夢をコントロールする
睡眠はスムーズな入眠だけでなく、目覚めよく起きることも大切です。
入眠時は遮光カーテンが良いのですが、目覚めるときには体内リズムを整えるため、たっぷり朝日が入るようにカーテンを開けるようにしましょう。
また、嫌な夢を見ると目覚めが悪くなるため、悪夢を見ないようにコントロールすることも必要です。
寝る直前に見たり考えたりすることでストレスが生じ、悪夢を見る引き金になる可能性もあるので、寝る前にネガティブな思考を反芻しないようにすることが大切です。
20分程度の短い昼寝をする
昼寝のような短時間の睡眠には、認知症の予防や学習効果の向上などの効果も期待されています。
昼寝は、眠気が生じやすい午後1時から4時までの間に取るのが良いでしょう。
ただし、昼寝が長いと夜眠れなくなってしまいますので20分程度にしてください。
「睡眠負債」になる前に早めの対策を!

慢性的な睡眠不足による「睡眠負債」は、心身の健康を脅かす危険性があることを学んできました。
日々の忙しさから、眠さを我慢して生活することはとても怖いことです。
仕事が忙しかったり、やることが片付かなかったり…、現代では仕事や時間に追われたときに、まず睡眠を犠牲にしてしまう人が多いようです。
ですから、寝不足を自覚している人、すでに睡眠負債に陥っている人は、慢性的な「睡眠負債」を解消するために、自身の睡眠についていちど振り返って、ライフスタイルを改めることがとても大切になります。
睡眠は食事と同様に、健やかな体を作るとても大切なものです。
睡眠が自分の身体にどれだけの影響を及ぼすのかをしっかりと認識し、日ごろから睡眠時間を確保すると言う意識がとても大切です。
ご自身の睡眠や睡眠環境、普段の生活を見直すきっかけにこの記事を役立てていただければ幸いです。